富士山山小屋オープンの手伝い―先輩の怪しい行動

富士山各所へ物資の輸送を担う作業員を歩荷(強力)と申しました。強力の本来の仕事は、ガイドです。
シーズンでは、物資はほぼ毎日運ばねば足りませんので、強靭な若者が体力トレーニングを兼ねて短期アルバイトとして人気があります。
報酬は実に単純で、重量数と距離から算出されます。彼らは大抵、山小屋で宿泊し、朝下山して、再度登ることを繰り返すのです。

山小屋

現代の日本の歩荷は男子がほとんどですが、昔は女性も従事しました。
野口英世のご母堂がこの歩荷をされていました。
登山道から外れた斜面をキャタピラー式の運搬車が荷物を運べるところもありますが、
富士山の姿の保全のため決められた斜面しか使用できないことになています。

私がはじめて富士山を登ったのは先輩に誘われたからです。そのときはシーズン真っ只中でした。
入山前に先輩が麓のスーパーで、キュウリ数本、ウイスキー2本、普段飲まないコーラを1ダース、
喫煙習慣がないのにタバコ1カートンを買っていました。二人で飲むには多すぎるウイスキーなど不審でした。

理由は、先輩が目的地とする山小屋への差し入れだったのです。
山小屋では、「キュウリ」のような生鮮食糧は非常に貴重なのです。
山小屋は「須走口」の登山口側(下山側は別です。)から登って九合目にある「太陽館」です。
ここのご亭主は山開き後は下山しません。ですから、この差し入れ以外には酒タバコは我慢しているのです。

太陽館をご存知の方もいらっしゃるでしょうが、少しだけユニークなところを紹介しておきます。
まず、大抵は、夜中に到着するケースが多いので、その時は気がつかないのですが、付近の石垣や山小屋の外壁の石積みが特徴的です。
石一つ一つに白のペンキで番号が振られていますが、その向きは全部デタラメで外側に向いていない石もありますが、
その石にも番号は振られているそうです。
なぜゆえに番号が振られているかと言うと、昔、ご亭主が若い頃その山小屋を入手し、
できれば少し移設したいと考え、その石積みをバラして、再度組み直そうと考えたそうです。
そのための目印がその番号です。結果は惨憺たる状態で、今に至っているのです。
場所が変われば元通りの「天然積み」は不可能で、結局セメントで固めたそうです。そのデタラメな石積みがこの写真です。

この山小屋は古い小屋だったそうです。その辺りにある石を組んで作られた石積みの山小屋はどれも古く、
軽い新建材で建てられた小屋は新しい小屋だそうです。